井田英夫

井田英夫

井田英夫

いだひでお

1975年旧新津市生まれ。97年新潟デザイン専門学校卒。99年モンセラート美術大学(アメリカ)卒業。ミンゴーギャラリー(マサチューセッツ州)で二人展。2002年より新潟絵屋、05年ギャラリーEMU-st(新潟)、11年久留米市一番街多目的ギャラリー、12年三方舎書斎ギャラリー(新潟)、15年天仁庵(広島)で個展開催。15年8月以降、広島県呉市音戸町に滞在。2017年は新潟絵屋で新作展を、砂丘館でこれまでを振り返る「ふだんを見つめる 井田英夫展」を開催。その後、新作はギャラリーみつけ(新潟)に巡回。2018年4月、三方舎書斎ギャラリーと新潟絵屋で有志の企画による「井田英夫支援展」が開催された。2020年4月27日逝去。
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2020年4月30日有志による追悼サイトが開設されました:hideo-ida.com

※田代草猫 句集『猫』
※展覧会

作家インタビュー

描くことを糧として

画家 井田英夫

 鮮やかなピンクやブルーの屋根と、黄緑色の道路や建物。景色を眺めているのか足元の黒猫を見ているのか、手前にはうつむき加減で背中を向ける黄色いダウンジャケットの人物がいる。
 『句集「猫」』の表紙を飾るこの独特な色合いの絵は、新潟市秋葉区(旧新津市)出身の画家、井田英夫さんの作品だ。井田さんは旅先で気に入った土地があると、そのままそこに居着いて作品制作を行う。表紙絵は、2015年から2017年現在に至るまで二度にわたって長期滞在している広島県呉市音戸町(おんどちょう)で描いたものだ。
 音戸町は瀬戸内海に浮かぶ倉橋島にある。本州との距離は80〜200m程で、その間には大きな橋が二本架けられている。
 きっかけは、この町に住む友人からの誘いだった。
「友達のところを訪ねたら、そこがすごくいい場所だった。それが音戸町との出会いです。土地の魅力ももちろんありますが、何より住んでいる友達とその家族や周囲の人達が、ともかく自分たちの町を大好きで、とても大切にしているのがよくわかって。いいな、滞在したいなと思ったんです」
 音戸町では、時折友人のカフェを手伝って最低限の収入を得るほかは、ひたすら絵を描き続ける毎日だ。
 「たまに納豆も買えないくらい厳しいこともありますけど(笑)、なんとか暮らせています。絵を描く以外のことをすると考えがとぎれてしまい、絵の思考に戻るのに時間がかかってしまうんです。だから極力、絵に集中したい。朝起きると今日は何を描こうか作戦を練って、あとはほとんどずっと絵を描いています」
 滞在先から戻ってくると、新潟を旅先のように感じることがあるという。
「日本海と瀬戸内海では、海の色が違います。新潟では使わない絵の具を音戸では使う。そうすると新潟に戻ったとき、以前は見過ごしていた色を景色の中で見つけられるんですよ。音戸町で見つけた色が新潟の平野の風景と重なって、違ったものに見えてくる。すごく新鮮に感じます。以前は平野と山の雄大な風景が描ききれないでいたんですが、そろそろ挑戦できそうな気がしています」
 自著に井田さんの作品を選んだ理由を、田代草猫さんはこう語る。
「井田さんの絵は、たとえそこに人間の姿が描かれていなくても、濃厚に人の気配が感じられるんですよね。鮮やかな色彩で日常の風景を切り取る彼の作品は、俳句の世界と通じるものがあると思うんです」
 『句集「猫」』には表現者たちの幸福な結びつきが、ぎゅう、と詰まっている。

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